2018年09月21日

緩和ケア病棟は「死ぬまでの間を生きる場所」

2018/9/19
テクノ アサヤマ(緩和ケア医)
 医師なら誰にでも「忘れられないカルテ」がある。後日、冷や汗をかいた症例、
奇跡的にうまくいった自慢の症例、「なぜあのとき…」と今でも後悔している症例、などなど。
ことあるごとに思いだし、医師としての自分の成長を支え続けている、
心に残るエピソードを集めた。

 緩和ケア病棟は「死ぬための場所」というイメージがある。
しかし同時に「死ぬまでの間、生きる場所」でもある。
「死ぬための場所」があることで、死ぬまでの間、生きることができるようになる。
ある女性との出会いを通して、私は緩和ケア病棟が生きるための場所であることを
強く意識するようになった。

 Uさんは臙脂色のスーツケースを引いて緩和ケア病棟にやってきた。はつらつと背筋を伸ばし、
ピンク色のレンズのメガネをかけて「よろしくお願いします」と笑う。
80歳近いが、歩くスピードは私より速い。何も知らなければ、この人が末期の膵臓癌で、
モルヒネを1日に何mgも飲んでいる人だとはとても思えない。
「別居して30年、ようやく夫と離婚しました。息子の手伝いをするつもりで
こっちに引っ越したらすぐ病気になっちゃって、どうしようか困っていたから、
とてもありがたいです。ご迷惑にならないように頑張りますね」

 独居老人という言葉について回るうら寂しさは彼女とは無縁だった。
朝には病院の寝巻きから花柄のセーターと黒いズボンに着替え、
スクワットなど足腰の体操を行う。
窓際には文庫本が積まれ、ベッドサイドでは読書や、友人への手紙を書いて過ごす。
いつも姿勢をまっすぐにシャキシャキと歩いていた。
一方で癌の局所進展、肺転移、胸水貯留と病状は厳しく、私は余命3カ月と診断した。
しかし彼女のかくしゃくとした姿に、もっと長く生きていられるのではないかと
誰もが期待させられた。

 ある日彼女は銀行の窓口に用事があると外出届を出した。一人で行けるわよ、と言うが
何しろ末期の癌患者なので、付き添いがいるに越したことはない。
ちょうど午前中の時間が空いていた私が一緒に行くことにした。
 「わざわざ先生についてきてもらっちゃって悪いわ。ありがとう」
 銀行までの短い坂道をしっかりとした足取りで歩く。私が気遣って歩幅を狭くしたり
足の運びを遅くしたりする必要は一切なかった。番号札をとって待合室の椅子に腰掛けた。
昼前のオフィス街の銀行は混み合っていた。銀行員が近寄ってきて用件を聞き、
タブレット端末を渡した。最近では、必要事項はタブレット端末に入力して手続きするようだ。
彼女は面食らったようで、結局私がいちいち尋ねながら入力することになった。
入力の終わった端末を彼女に返すと、「私もスマホにしようかしら。
スマホなら色んなことを調べたり、動画を見たりできるんでしょ。
次、息子が来たらスマホのお店に行きたいわ」。

 ああ、彼女は生きている。3カ月後の死よりも、今の生を、3カ月後までの現実を生きている。
余命3カ月ということは、あと3カ月は生きているということだ。

 毎日、病棟で誰かが死んで、仲良くお話していた人も次の週には死んでしまう。
そんな毎日でそんな当たり前のことを私は忘れていた。目の前の彼女は今を生きている。
今私の隣にあるのは、一生懸命生きる命そのもので、その力強さに私は圧倒された。
そうですね、Uさんならすぐスマホを使いこなしそうです、
と答えたところで表示板に彼女の番号が灯った。
 手続きを一通り終えると流石に少し疲れたようで息切れがあり、
私は予め持参していたモルヒネの速放剤を差し出した。
 「ありがとう」。待合室の椅子に座って症状が治まるのを待つことにした。
彼女が息を整える間、目の前の柱に貼ってあるポスターの文字を読んで待っていた。
端から端まで「退職金限定スーパー定期預金」の説明を読み終わった頃、
彼女は立ちあがってリュックサックを背負った。

 「もう大丈夫。ご迷惑かけてごめんなさい。帰りましょう。
帰ったら、先生に謝らなきゃいけないことがあるの」私の顔を見上げて、
白い歯を見せて笑っていた。謝らなきゃいけないこと?と尋ねると、
「帰ったらね。私、先生に怒られちゃうわ」。行きと変わらずスタスタと病院への道を
歩いた。行きは下り坂だった上り坂も、私と同じペースで登っていた。

「先生、お話いいかしら」
 さっきの話ですね、と声をかけて面談室に彼女を呼び入れた。
茶色の大きな紙袋を面談室のテーブルに置いて、いつも読んだ本の話をするのと同じ口調で
彼女は話し始めた。「ここの病棟に入院できることになって本当に感謝しているの。
最初は2〜3カ月待つと言われて、でも思いがけず早く入ることができて、本当にありがたいわ」。

 それは彼女が入院したときから繰り返し語っていた内容だった。
「こっちにきて病気が分かって、もう手がつけられない状態だと分かって。
余命は3カ月と言われているのに、緩和ケア病棟も3カ月待つって言われたから、
私はどうしたらいいのかしらと途方に暮れていたの。
一人暮らしもいつまでできるか分からないし、息子は息子で大変だから迷惑はかけられないし」。

 息子さんの事業がうまくいっていないという話は後に知った。

「だから、体が動かなくなってしまう前に、自分で終わりにするしかないなって思っていたの。
人に迷惑のかからないような山奥で、薬をたくさん飲んで終わりにしようと考えてた。
今考えれば、そんなことしたら余計に迷惑かけちゃうのにね。でもそのために、
処方される頓服の薬を、飲んでないのに嘘をついて溜めていたの」。
迷惑をかけたくない、は彼女の口癖だった。

 「そんな時に、ここの緩和ケア病棟に来週入れますってお電話頂いたの。
心からホッとしました。おかげさまで今こうして居られています。
自殺なんて悪いことを考えていたのを先生に話したら、きっと怒られるだろうなと
思って言えなかった。でも、この隠していた薬が見つかったら病院にご迷惑をおかけするわね。
だから、先生に全部お話しようと思ったの」。

 紙袋の中身は山程の医療用麻薬だった。
彼女が本気で自殺を計画していた証拠が質量を持ってそこにあった。
 「この薬、もう必要ないわね。私はここに来れたから、もう何も心配なく生きていけるもの。
こんな悪いことを考えて本当にごめんなさい。この薬は、私の罪だと思って、
先生が処分してください」。

 緩和ケア病棟があったから、彼女は生きられた。
死ぬまでの間をどうやって生きたらいいか分からず、生きるのをやめようと思った人を、
緩和ケア病棟が救った。死ぬための場所があるから、死ぬまでの間、生きることができる。
この仕事をしていて初めてはっきりと、自分の仕事が人を生かしたという実感が、
渡された紙袋の重さで目に見えた。私は泣いていた。

 Uさん、こんな大切なことを話してくれてありがとうございます。
もう自殺なんて考えたらダメですよ。ここで安心して暮らしていていいんですから、
絶対にそんなこと考えないでくださいね。寿命が来るその日まで生きていて下さい。
約束ですよ。と、私は小指を差し出した。指切りげんまんをしたら、彼女も泣いていた。
 彼女は私との約束を守り、3カ月半後に寿命を全うした。
死ぬための緩和ケア病棟が伸ばした彼女の3カ月の命。「死ぬまでの間は、生きている」。
死ぬまでの命を生きてもらうために、私は今日も緩和ケア病棟で働いている。

テクノ アサヤマ(ペンネーム)〇緩和ケア医。
三次救急病院、僻地医療を経て現在は市中病院ホスピスに勤務。
「死ぬことは生きること」をモットーに患者の話に耳を傾ける。
好きな言葉は「せっかくだから」。
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2018年09月20日

アスペルガー症候群とADHDの違い

アスペルガー症候群は、同じ発達障害としてニュースなどでよく取り上げられる
ADHD(注意欠如・多動症)と混同されることがあります。
特に、ADHDの中でも、多動性が少ない不注意優勢型は、
ネット上の色々なサイトの説明を見ても、アスペルガー症候群との区別が
あいまいになってしまっている場合があるようです。
確かに、アスペルガー症候群とADHDは、ときどき併存することもありますが、
基本的には別物です。たとえば、おおまかに言って次のような違いがあります。

※以下の説明のアスペルガー症候群のついてのページ数は女性のアスペルガー症候群
(健康ライブラリーイラスト版) を、ADHDについてのページ数は、
姉妹本である女性のADHD (健康ライブラリーイラスト版) を参考にしています。

■興味の範囲
アスペルガー症候群は「こだわり」が強く、変化を嫌うため、興味の範囲が狭く、
特定のことにマニアックです。

ADHDは「新奇性探求」が強く、次々と新しいことに目移りするので、
興味の幅がとても広く、さまざまな分野の知識を持ちます。

■会話の難しさ
アスペルガー症候群の女性がガールズトークについていけない理由の一つは、
受け答えが人より遅かったり、興味関心がなかったりして、ペースについていけないことです。

ADHDの女性が同性の間で浮いてしまうのは、思考の多動性のため、一人で話しすぎたり、
衝動的に会話を横取りししたりしてしまい、身勝手に思われるからです。

■規則正しさ
アスペルガー症候群の女性は、変化が苦手なため、
同じ規則やルールに沿った生活を続けることを好みます。

ADHDの女性は、変化の無さに絶えられず、次々と新しいことを始めたり、
予定をつめ込んだりしすぎるので、規則正しい生活が苦手です。

■まわりから浮く理由がわかるかどうか
アスペルガー症候群の女性は、いじめられたり、仲間はずれにされたりしても、
特に子どものころは理由がわからず、おかしいのはまわりのほうだと感じることが
多いようです。

ADHDの女性は、悪いとはわかっているのに、衝動性や不注意から余計なことを言ったり
してしまうので、自分がまわりから疎まれやすい理由がわかり、自己嫌悪になりがちです。

■細部か全体か
アスペルガー症候群の女性は細かい細部にこだわりすぎて、
融通が利かない人と思われがちです。

ADHDの女性は、おおまかな全体ばかり見て細部が疎かになり、
大雑把な人、適当な人と思われがちです。
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2018年09月19日

夕陽の向こうにあの人を想う

残暑やわらぐ夕方になると「カナカナカナ・・・」とヒグラシの鳴き声が響き渡り、
ふと道端を見ると彼岸花が秋を知らせてくれています。もう、お彼岸ですね。
秋分の日を中心とした一週間、今年は9/20〜9/26です。

春分・秋分の日には太陽が極楽浄土のある真西に沈みます。
仏教的にこの一週間は、阿弥陀さまとご先祖さまのいらっしゃる西方極楽浄土(彼岸)を
思い浮かべ、亡き方へ想いをよせつつ、自身の往生を願って、仏道実践に励む期間です。

気候も穏やかになるこのお彼岸に、お墓参りに出かけませんか?
家族で行き、亡き方の思い出話に花を咲かせるのもいいですし、一人で行き、
心を落ち着けて自分自身を振り返る時間をもうけつつ、故人を偲ぶのもいいでしょう。

沈みゆく美しい夕陽の向こうから「大切なあの方」が温かい眼差しで
私たちを見守って下さっています。
(浄土宗新聞9月号より)
posted by 8020 at 05:00| Comment(0) | 日記

2018年09月18日

ドクターごとうの食べるLABO ~たべらぼ~ 


2018年9月13日放送回
<今回の主なトーク>
■病院選びは人生を選ぶこと
■食べる事にも体力を使う
■舌の掃除について   ほか
https://www.facebook.com/taberulabo/videos/254183071903827/
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2018年09月17日

足の小指がこれからのキーワード

今井一彰先生
足の変形も生活習慣病といったら驚く人がいるかも知れませんね。
食が体を作る、これに異論がある人はいないでしょう。
同じように足も生活習慣で変化していくんです。

それは小さな小さな変化かも知れませんが、毎日少しずつ変わっていくのです。
また1,2回暴飲暴食をしたからといってすぐに体が変化するものでもありません。
同じように足に悪い靴を履いたからすぐに全身が悪くなるわけでもありません。
今回の本は見落とされがちな「小指」(本来は小趾)に注目しました。

「鎖は一番弱いところが切れるでもそれがどこかを知ることは難しい」と言われますが、
足指の中で一番始めに切れる鎖が小指です。
小さくて弱い小指は様々な外的要因によって変形していきます。
ぱっとイメージできる足に合わない靴だけではなく、ストッキングや靴下、
スリッパなどで小指が変形してしまうのです。

小指は足のアーチを形作り、姿勢良く立てるための大切な体の一部なのです。
腰痛、膝痛、猫背など何をやっても治らなかったとしてもあきらめないでください。
もしかしたら小指が答えかも知れません。
ゆびのば体操で小指を伸ばしていくだけではなく、小指に優しい生活を続けて下さい。
それがいつまでも歩ける足づくりの「第一歩」となるでしょう。

これまであなたの体を健気に支えてくれているのに気にすることのなかった
小指の大切さを知って下さい。
新著の特設ページ開設しました!
https://mirai-iryou.com/koyubi/
posted by 8020 at 04:13| Comment(0) | 日記